第8章 イノセンスの能力
その時だった。
ノックの音と同時にリーバーが室長室に入ってきた。
「室長、すみません。緊急事態です!探索部隊が重症で帰ってきました。至急お願いします!」
リーバーは息を切らせコムイのことをまっすぐ見つめる。
「分かった、すぐに向かおう。アランちゃん、悪いけど詳しい話はまた後で……」
「私も一緒に行きます!お願いします!」
「君はまだイノセンスを発動したこともない。それにこれから行く場所は少し刺激が強すぎる。今まで戦場へ行ったことがない君には」
「それでも!私はこれから皆さんと戦うんです!何も知らないまま先に進むなんて出来ませんっ!」
しばらく無言で見つめ合うふたり。
やがてコムイは小さなため息とともに口を開いた。
「決して甘い現実ではないよ」
「街を出た時点である程度の覚悟はしています。お願いします」
「分かった、行こう。リーバー班長案内を頼む」
「こちらです!」
リーバーは少し驚きながらもすぐに案内を始める。
向かったのは吹き抜けになっている場所で、そこには怪我を負ったたくさんの探索部隊と、婦長を含めた医療隊が手当に当たっていた。
アランははっと息を飲み口を抑えた。
「原因は?」
コムイが厳しい目であたりを見渡す。
本の数分前に運び込まれたというのに、鼻を突くような鉄の匂いが充満している。
「それが、今のところ原因不明で、エクソシストが何名か現場へ向かっていますが、今はなんとも……」
悔しそうに手を握りしめるリーバーを見てアランは、覚悟を決めたように息を吸いこんだ。
「コムイさん、私にチャンスを下さい……」
「それは、どういう意味だい?」
「ララが……このイノセンスの前の持ち主が私に言ったんです。私の歌はAKUMAにとっては毒だけど、歌い方によっては薬にもなると。コムイさんにとっても、私のイノセンスを知る良い機会になると思います!だから、お願いします!」
コムイはしばらく考えたようなそぶりを見せた。
「危険だと判断した瞬間にすぐにやめさせるよ。それでもかまわないかい?」
「はい!」
アランは十字架がおかれている台の前まで行くと全員を見渡し息を吸い込んだ。