DIABOLIK LOVERS MOONLIT NIGHT
第5章 `Halloween party.(特別企画:逆巻)
*逆巻アヤト*
「こんなトコにいたのかよ、銀髪」
いきなり背後から聞こえてきた声に、吃驚して振り返る。
そこには、全く悪びれた様子もなく立っている彼──逆巻アヤトがいた。
「何だよ、そんな顔して…」
当然だ。驚かせておいてごめんの一つも無しとは。
だから私は、今日がハロウィンという事を思い出して、それを利用して少しばかり意地悪をしてやろうと思った。
ところが、『Trick or Treat』と書かれた紙を彼に見せると…
「ん?…ティーアールアイ──何て読むんだよ?」
そんな解答が返ってきた。これには予想外の粋を超えていて、流石に溜め息が出そうになった。
『トリックオアトリート』
「あぁ!トリックオアトリートか!つか、オレ様が菓子持ってねぇの分かってて云っただろ⁉卑怯だぞ銀髪!」
よくこの長文を一息で言い切れたな、と感心すらした。だが、お菓子を持っていないのなら、意地悪決定だ。
今日はハロウィン。それくらいは赦してくれるだろう。
『意地悪決定しました』
「あぁ⁉ ちょ、待てよ…」
彼の制止を聞かないで、私は彼に迫る。彼は追い詰められているのが分かったのか、大人しく目を瞑った。彼にしては珍しい。
ちゅ…
「…は?」
『意地悪、成功』
そう書いた紙を見せて暫くすれば、彼は漸く私のした意地悪に気付いたようで、途端に頬を赤らめた。
「な、何してんだよ⁉」
『反応、遅い…』
「うるせぇよ!」
その紙を見た彼は、少々拗ねてしまったのか、そっぽを向いてしまった。
『アーヤト』そう書かれている紙を提示しながら、彼の肩を叩く。だが、彼は振り向く事をしない。
…五回くらい繰り返した頃だろうか、急にアヤトが振り返り、私に向かって云ったのだ。
「トリックオアトリート」
「!」
彼に向かって云ったのは良いものの、その後の事を全く考えていなかったのが裏目に出たようである。
「…無いんだろ?」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた彼は、その腕の中に私を引き寄せると、そっと口付けた。
「クク……覚悟しとけよ、銀髪」
──今夜くらいは、大人しく彼に囚われてみるのも良いかもしれない。