第3章 ✳︎
突然きた痛みがすっと消えていく。
それと同時に痛みでにじんだ視界に映った俺を安心させる表情。
「大丈夫ですか…?」
鈴が鳴るような静かに囁く声は俺から不安や恐怖を消し去っていく。
いつまで経ってもやってこない、地面に体が叩きつけられる痛みは、一匹の大きな黒猫によって遮られていた。
「もう大丈夫だよ。”コナ”。」
そう言うと咲華は俺の手を引っ張って立たせる。
黒猫の正体は、あの4歳ほどの少女だった。
足元がまだおぼつかない俺は目の前に立っている咲華に倒れ掛かってしまう。
「す、すいやせん。」
「大丈夫。あそこまで痛みがひどくなってるとは思わなかったよ…ごめんね。」
そう言って倒れ掛かった俺の背中に腕を回し、頭をポンと触る。
痛みが引いて落ち着いた俺に、今度は強烈な眠気が襲ってくる。
その眠気に逆らえず、重い瞼をゆっくりと閉じる。
「おやすみ…”総悟”。」
俺が意識を手放す前、耳元でそう聞こえた気がした。
その優しい声を合図にするように、俺はゆっくりと意識を手放した。