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「ありがとう。」と「いかないで。」

第3章 ✳︎


俺は一度屯所に帰ることにした。

『頭痛がしたら我慢せずに誰かに言ってください。すぐに行きますから。』

俺が屯所に帰る前に言われた言葉。

『我慢…しちゃダメだよ…!ちゃんと…咲華を……頼って…ね?』

4歳くらいの少女にそう言われたのを思い出す。

頼る……か………。


この頭痛は確かに俺たち人間が耐えられるような痛みではない。
咲華がいなければ今頃俺はどうなっていたのか・・・。
あのまま助けられなければ最悪の場合は死・・・・

そこまで考えてゾクッとした。咲華があの場を通りかからなかったら・・・死んでいたんだ・・・。
死は覚悟しているはずなのに、いざとなると怖い・・・。

「・・・大したことねェな・・・どこが死を覚悟してるんでィ・・・。」

自嘲気味に笑い、ゆっくりと屯所に歩みを進める。

屯所の門の前まで来ると煙が一つ。あがっているのが見えた。

(何で帰って早々あんな奴の顔見なきゃなんねェんでィ・・・。)

そんなことを考えながら煙を上げている人物の横を素通りそようとすると腕を捕まれた。

「どこ行ってたんだ・・・一晩どこで過ごしたんだ・・・?」

「どこでもいいでしょ・・・離してくだせェ・・・。」

「質問に答えろ。」

「だから・・・離せって言っ・・・・!」

土方の手を振り払おうとした瞬間、今まで治まっていた頭痛が蘇ってきた。

さっきより増した痛みに耐えられず地面に膝をつく。

視界が歪んでいく・・・

意識が薄れていく俺の耳に聞こえたのは焦った土方の声。
そんな声に反応するように奥から出てきた近藤さんの足音。
たまたま通りかかったらしい万事屋一行のこちらに駆け寄ってくる慌ただしい足音。

そんな声や音がすべて雑音になっていく・・・

『誰にも言えなかったら私の名前を呼んでください。どんなに小さな声でも私には聞こえますから・・・。』

頭の中でこだまするように響く囁くような咲華の声。

「・・・・咲華・・・・・・・・・・・・・・・。」

やっと発した俺の声は咲華に届いたんだろうか。
何もつかめない俺の手はそのまま体と共に地面に落ちていく。


意識を手放そうとした俺の頭に聞こえるのは咲華の声・・・













『どんな状況でも諦めないで頑張って・・・。』
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