第2章 兄貴、信じてたのに
「フェルグスさん、他言無用、他言無用ね!」
「お、おお、了解した」
こんなことを話しているのを他の人が聞いてしまってもいけない。
ジークフリート、ロビン、ダレイオスさん、ディルムッドだったな。まずは探さなくては・・・、
「先輩・・・?どうなさったんですか?」
ふと声をかけられて振り返ると、あああマシュ、私の可愛いマシュ!しかしこれを話すわけにはいかない。
「あ、マシュ!いや、ちょっとジークフリートに内緒の話があってね、探してるんだ」
「ジークフリートさんなら、つい先程博士と資料室から出ていらしたのを見かけました」
なんて可愛い笑顔なんだ。今すぐ君を抱き締めてもみくちゃにしたい。しかし私は急いでいる・・・
「ありがとうマシュ、助かるよ!」ぽんぽんと頭を撫でると少し赤らむ頬が愛おしい・・・私が男だったら絶対に放っておかないのに・・・、ではなくて。
資料室の近くを探さねば。
「ジークフリート〜!」呼びかけながら歩いていくと、遠くへ行っていなかったのだろう、彼は割とすぐに顔を出した。
「マスター、呼んだか・・・すまない・・・探させてしまったようで、すまない・・・影が薄くて本当にすまない」
「ううん、そんなに謝らないで!あの、ちょっと話があるんだけど、・・・あ、そこの部屋に」
相変わらずすまないを連発しているジークフリートを部屋へ引っ張っていき、戸を閉める。
「俺は何か失態を犯してしまっただろうか・・・」
「ううん、そうじゃないの。失態を犯したのはクー・フーリンだから」
ふんす、と荒く鼻息を吐く私を見て、なにか察してくれたようだ。話が早い。
「分かっちゃった・・・?それ、誰にも言わないでほしいの」
「マスターがうっかりクー・フーリン殿の膝の上で眠ってしまった話だろうか、それとも時折ドレイク殿の胸に埋もれて『オギャァ〜』と・・・」
「ちがう、ちがう何話してんだあやつめ!そうじゃなくて、私の・・・好きな人の話・・・聞いちゃったんでしょ・・・?」
ああ、と小さく声を上げ、ジークフリートは何度も頷いた。そっちの方が衝撃的な話だっただろうに。
誠実な彼なら、念を押さなくとも他人へ喋ったりはしないと分かっているのだが。恐らく生前の逸話からして酒に少々抵抗があるであろうジークフリートなら、それ関連で前後不覚になることも無いだろう。