第2章 壱 トリップ、してしまった。
約150年前の日本…言い換えると日ノ本。
そして、今は文久3年12月で、私は今京都にいるらしい。
これは、近くの団子屋のお爺ちゃんが教えてくれて、団子をご馳走してくれるというので、ちゃっかりご馳走になっておいた。この世界に来た時に、お金というお金は持ってなかったし、それ以前にこの世界で前の世界のお金が通用するとは到底思えなかった。
お爺ちゃんがご馳走してくれたみたらし団子を食べ終えると、隣に座していた男の人に、少しだけ尋ねてみた。
「すみません」
「ん? 何だ、お嬢さん」
「あの、えっと、…帰る家を無くした場合って、どうすれば良いんでしょうかね」
「!? 君は帰る家が無いのか?」
「まあ…はい、そんな感じです」
気付いたらここにいました。とは、幾らなんでも云えず。仕方無く、帰る場所を無くした可哀想な子設定にしておいた。
念のためもう一度云うが、仕方無く、である。
「そうか…。ならば、うちに来るか?」
「えっ…」
「遠慮しないでいい。男ばかりではあるが…、それでも構わないと云うのであれば、うちが君の身を預かるとしようじゃないか!」
こんな親切すぎる人を、私は知らない。
もしくは、元の世界とは違いすぎるのかもしれない。
「どうだ?」
「──お願いします」
その声は、少しだけ震えていた。