第3章 弐 やっぱり、そうなるよね。
*.土方
「トシ、どうしても駄目か?」
屯所に帰ってくるなり、不安げにそう云ってきた近藤さん。
ただでさえ新選組には面倒事が多いというのに、それにいつもの様に対応している土方が許す筈もなく。
「駄目に決まってるだろーが!」
土方は声を荒げた。やはり仕事漬けなのか…その声には若干、疲れも含まれていた。
「近藤さん、やっぱり」
女の声が聴こえた気もするが、その事に関して反対している土方はこの際無視したようだ。
「大体、こんな男所帯に女一人を入れたらどうなると思ってやがる!?」
「ど、どうなるんだ?」
まるで分からない、といった近藤の顔を見て、ますます苛々してきた土方。
「屯所の規律が乱れるに決まってるだろ!!」
「あ、あの!」
そんな中…聴こえた声は先程無視したばかりの女の声。
女は近藤の丁度真後ろに立っていて、近藤と向かい合って云い合いをしていた土方には、実はよく見えていなかった。
「…近藤さん、こいつは…」
「ああ、さっき説明した通りだ。どうにも帰る家が無いらしくてな。この子の身元をうちで預かりたいんだが」
「──…」
改めて見た女の姿に、土方は息を呑んだ。
薄紫色の無地の着物を身に纏い、長い黒髪は左横に結われてある。それ自体は何でもないのだが、振り袖から除く白く細い腕は華奢な体つきを連想させ、何よりその女は美しく、とても妖艶であった。
そして、その女の瞳の奥には確かな覚悟があったのだ。
誰にも理解できない、女にしか理解できない覚悟が。
「…あんた、名は」
「! 夜風月です」
「そうか。…帰る家が無いんだったか?」
「…はい」
長い沈黙の中、土方は意を決して口を開いた。
「………、はあ。俺は新選組副長、土方歳三だ。──これから宜しくな、夜風」
自分でも信じられなかった。まさか、女を屯所で預かる事を許すなんて。
「はい!宜しくお願いします」
そう告げながら頭を下げた女──夜風月。
その笑みは酷く妖艶で、人を惹き付けて離さない程のものだった。