第8章 我儘
「こんな感じだが信用してくれていい。牡蠣殻を探させてくれ。生け捕りが条件のビンゴブッカーなら訳有は当然だが、牡蠣殻を草や音に渡したくはない」
そして恐らくは砂にもね。
その言葉を呑み込んで波平はナルトやシカマルと話している伊草を見た。
「私とあの人の話を信用して下さると、そういう事ですね」
だからと言って五代目が牡蠣殻をどう扱うかはわからない。駒にならぬのであれば始末しようとするやも知れない危惧は依然、ある。
散開からこっち、外交を重ねる程に他里への不審は高まるばかりだ。無論、清濁あるのがそうした関わりと心得てはいる。だからこそその中で何を死守するかが肝要なのだ。そしてその選択が未熟である事もわかっていた。磯の事を考えたとき、牡蠣殻を抱え込むのは吉凶どちらの目を出すか、波平には読み切れない。それでも牡蠣殻が欲しいのだ。公私に渡って支えてくれる功者の筒井筒が。
牡蠣殻の探索をこの年若い忍びたちに委ねるとなれば、カカシやアスマ相手の波平の手回しが半ば以上徒労になる。辛うじてシカマル、しかし彼とて磯や波平に対してカカシやアスマ程の意識を持ってくれるとは思い難かった。堅固な心の僅かな揺れの匙加減に賭けたい波平には老獪な上忍より年若いシカマルがむしろ扱い辛い。
これが彼が個人的に関わりのある藻裾の話であれば、また違ったのだろうが。
そこまで考えて波平は顔をしかめ、するりと額を撫ぜた。
汐田藻裾。
今何故か音にいるあの娘。便りをよこしたのはいいが、悪びれもせず音にいると告げるその心境が波平には図りかねた。あれはあれで何をしているのか。
気付くとシカマルがこっちをじっと見ていた。
同じく藻裾の事を考えていたのだろう。もの問いたげな顔をしている。
ほら見ろ。
波平は内心苦笑いして口を拭った。
肝知に長けその歳より大人びたシカマルでさえ、目の前で講じられる牡蠣殻の問題より個人的に繋がりのある藻裾の事に気をとられる。この微妙な状況下で、移ろいやすく、磯、そして波平や牡蠣殻に何の感情も持たない年若な忍びに事を任せる気にはなれない。
最終的に人を動かすのはその心だ。
磯人故に、波平はそれを知っている。忍びも人だ。
そう、忍びも人。磯はその弱さ故に生まれた里。人死にと任務の重責に耐えかねた忍びが産んだ、臆病風と用心の里。
波平は腹を決めて綱手に目を向けた。