第4章 未熟者
「何じゃ、そんな事か。気にするな。わしゃお前のそういう鼻持ちならんモノの言い方がちゃんと嫌いじゃぜ?破波の息子だからってだけで毛嫌いしとる訳でない。良かったな」
自来也が鼻の穴を膨らせて腕組みしながら言い放つのに、波平は眼鏡をかけ直して尚深い溜め息を吐いた。
「成る程、わかりました」
「ほ、親父と違って物分りがいいの」
「勘違いなさいますな。私もあなたがどうも好きではない。お互い様だという事がわかったと言っているのです。先代のように言い合いの挙句何となくなし崩しに親しくなるなんて事は私に限ってはまずありません。私は先代ほど人が好くもなければ社交的でもない。…何なんでしょうね、あなたを見ていると無性に腹が煮える…」
「腹が煮える?お前が?」
二人のやり取りを半眼で聞き流していた綱手がフイと波平を見た。
「そうか、お前でも腹が煮えるのか。ふん?」
「……何の話ですか、五代目」
眉をひそめた波平に綱手は朗らかな顔を向ける。
「相応に青臭い。いいじゃないか。随分人並みになって来た。あちこちで揉まれてるんだな?破波も喜ぼう。ふ、自来也、お前の稚気もたまには役に立つ。せいぜい揉めるがいい」
「稚気?わしゃガキじゃねえぞ」
ムッとする自来也に綱手は声を立てて笑った。
「そういうところに稚気があると言うんだ。怒るな。満更悪い事じゃない」
息を吐いて窓から表を眺める。
その視線を追った波平は眼鏡のツルに指をかけて束の間瞠目した。
以前木の葉で過ごした際、毎日忸怩たる思いで眺めた歴代の火影の顔岩。
「…今見ると違って見えるか?」
綱手の問いに首を傾げる。
「さて、ここと磯では色々違い過ぎますからね。何処を重ねて何を見ればいいやらわかりません」
「何処でも大差ない。人を束ねる立場に身を置くのは難儀なものだ」
綱手は噛んで含めるように独り言ともとれる物言いをした。
「里を傾けぬよう常に先を見て足元を掬われぬように気を張らねばならん。正解もない。…殊私情に絡め捕られる事なく努めねば」
綱手と波平の目が合う。
自来也が腕組みして口をへの字にした。
「何の話じゃ」
「仮に」
自来也を遮って波平が低く言った。