どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第5章 素性
サキは無言で立ち上がると、ヒソカの手首を無遠慮に掴み、足早に移動する。
先程まで饒舌に語っていた男性の目がヒソカと私達を何度も往復するのを、サキはこの際気にしないことにしたらしかった。
彼女は、廊下を曲がったところで彼を壁側に追いやり向かい合う。
「おや。随分と積極的だね」
「その舌、引っこ抜かれたい?アンタのおかげであたしまで酷い噂に──」
言いながら、サキはヒソカの匂いの変化に気付く。
『真新しい血の臭い』
「──アンタ、この数時間、一体何してたの」
「ナイショ」
眉値を寄せるサキに、ヒソカは人差し指を口元に立て、ニィと妖しく笑った。彼の、おどけたポーズとは正反対の狂気を孕んだような暗い目元に、彼女はごくりと唾を飲む。
確証はない。でも“まさか誰かを”と私達は思わずにいられなかった。
「──ランガさん。イルダ・ランガさん」
ねっとりとした緊張感の中に、看護師の高い声が響く。
サキは、はっとしてそちらを向き、応えた。
「あたしです」
こちらに、と、彼女は手術室隣の部屋に招かれる。
手術室前の廊下を足を早め進むサキと、父を看取ったあの日の自分が思いがけずリンクし、私は彼女の中で目を瞑った。
「ランガさんですね。今回の手術では、主に腎臓の裂傷の縫合を行いました」
白髪混じりの医師が、淡々と彼女に告げる。
「出血量が多く危ない状態でしたが、今は安定しています。もういつ目を覚まされても不思議ではありませんね。会って行かれますか?」
“安定”、“目を覚ます”、それらの言葉が私の中でこだました。
よかった。あの人、助かったんだ。
『もう十分よね?サチ』
『……はい!本当に、本当にありがとうござ』
『分かった、分かったってば』
サキは私言葉を遮ると、背筋を伸ばし医師と目を合わせた。
「いえ、安否さえ分れば十分です。これ以上長居するつもりはありませんので」