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どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】

第9章 彼らの理由


「知り合い?」

いつの間にか隣に並んでいたヒソカが、サキにそう声掛ける。
考え事をしていた私はびっくりして、サキの中で少し跳ねた。
私は、自分自身に向けはじめた思考を、周りへと向ける。

「全く」

サキは、前方でたむろするように走る受験者達の、その先を眺めながら言った。その集団の中で三兄弟とトンパがやり取りしている様子も目に入る。

『……ホント、何が楽しいんだか』

サキは、見るんじゃなかったと言わんばかりに焦点をずらした。
彼女は、振り返ろうとはしない。けれどニコル君のことが気に掛かるのだろう、彼の気配を感じ取ろうとするような意識の偏りがあった。

「赤の他人の為に足を止めていたのかい?優しいね」

ヒソカが目を細めながら言う。
意味深な微笑みに、私は“あ、まずい”と思った。
私達があの場に留まっていた理由が彼であることは、どう考えても明らかだったからだ。
けれどそれらしい言い訳はついに思い浮かばずにおり、どうしよう……と、悩んでいるところに、サキがハッと乾いた声で笑った。

「優しい?あたしが?」

サキは眉根を寄せ、小馬鹿にしたような口調で返した。なにかそれらしい言い訳が思い浮かんだのだろうかと期待したが、サキの余裕の無さから察するに、どうやらそうではなさそうだ。

「何を勘違いしてるか知らないけど、見当外れね。あたしはただ」

そう続けて、一度言葉を止める。そして再び「ただ、」と、相応しい言葉を探すように、声を落とした。

「ああいった苦痛は……“罰”であるべきだと、思うだけよ」

──心を壊し生きていくことが、時に死より残酷なこともある。サキ自身、そういった“罰”をもって、復讐を成そうとしている。

そうか、だから彼女はニコル君に声をかけることにしたのかと──力及ばないことに対する“罰”が生涯に渡るものであるべきでないとサキは感じていたのだと──私は今ごろになって、知った。
ひょっとするとサキの心の声は、私よりずっと小さいのかも知れない。

目を伏せるサキの声は、深く沈んで聞こえた。
復讐に燃える声とはどうも違って聞こえるそれは、どこか懺悔の色を含んでいるような気もした。
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