どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第5章 素性
トイレ前の手洗い場。
私は、鏡に映る彼女の顔を思わず二度見し、そしてまじまじと見つめた。
『な、何?』
『これ、本当にサキなんですよね?』
私は呟くように確認する。と言うか、自分に言い聞かせている、とするのが正しいかもしれない。
私はサキを見てまず、昨夜ショーウィンドウで姿を確認した際に“あまり変わっていない”と認識したのは間違いではなかった、と思った。だって鏡の中に居たのは、私と瓜二つの人物だったから。
……もう少し正確に言うと、化粧後の私。しかも、割と上手くいったときの。寝起きでコレなら正直かなり羨ましい……と、そこまで考えて、けど、と思う。
──目の色は、全然違う。
彼女は鮮やかなオレンジに金がかかったような、いわゆる琥珀色の目をしていた。
それが、見慣れた顔のはずなのにすごく不思議で、綺麗だな、と素直に思った。
「ありがと、サチ」
鏡の中のサキは、そう言って私に微笑む。
私は、まるで私という肉体を持って彼女と相対しているように感じた。
そして、サキのいたずらっぽい笑顔に──自分と同じ顔立ちの、初めて見る彼女に──私は少し、どきりとした。
『っ私の方こそ、こんなにも我が儘に付き合っていただいて、なんとお礼を言えばいいか……!』
「ねぇ、アンタそれ何回目?」
髪を整え終えた彼女は去り際、鏡の中から横目に、私に笑いかけた。
『……にしても、こんなに似た人って本当にいるんですね。もう私、心臓止まるかと思いましたもん!』
『止まってるんじゃなかったっけ?』
待ち合いに戻るための廊下を、そんな軽口を叩きながら私達は歩く。すると、長椅子に座り世間話をしている入院患者らしき男性達の声が、偶々耳に入ってきた。
「なぁおい、聞いたか?今朝天空闘技場で乱闘があったらしい」
「あ?別に珍しい話じゃねぇだろ」
「いや、それが1対20で伸したってんで騒ぎになってんだよ。いや、30だったか?」
『アイツ、やっぱ噂になってんのねぇ。ちょっと盛られてるけど』
『……ひょっとして、どこかで捕まってるんじゃ?』
『かもねぇ』
私達は、なかなか戻らない噂の主を思う。サキは僅かな興味から、男性達の背後にある長椅子の端に腰掛け、噂話に聞き耳を立てた。