第4章 第3話
「待てコルァー! 俺との決着がまだついてねーぞ!」
「兄さんが待ってー!」
蚊を追いかけて爆走する兄さんを追いかけているのだが、兄さんの速さが尋常じゃない。足の筋肉のデータを展開してなんとか追いついてはいるが感覚がもう無くなってきた。
「口に入ったっ! ぺっぺっ! このやろー!」
ようやく止まったと走るのを止めるが、こき使い過ぎたのか立っていられずそのまま崩れるように倒れる。
「兄さっ……ちょ、速っ……」
「え、何あれ」
「んぁ?」
兄さんの声につられて顔を上げるとテレビで見たような黒い塊がそこにあった。
「あれ……テレビでやってた蚊じゃ……」
「えっ、蚊?! えぇ……」
明らかにドン引きしている。そりゃこの大群は気持ち悪いし早く逃げたいけど、さっきまで爆走していた足が鈍痛で動かない。
「そこのお前たち」
知らない男性の声がしてそちらを見ると腕が明らかに機械でできているロボット(?)のような奴がいた。
「避難していろ。あの群れは意志をもっている。こちらに気づけば襲ってくるぞ」
「マジで? やべーじゃん、早く逃げよ――」
彼が忠告してくれたその時、黒い塊がこちらに迫り来る。私はすぐさま羽で自分の身を守る。蚊たちが降りかかり、身体をかすめていく。凄まじい音と身体にパシパシ当たる感覚が気持ち悪い。しかしすぐにその感覚は熱を帯びてきた。
(これは炎?! あのロボットが焼き払おうとしているの?!)
羽の上を灼熱の炎が走っていく。いくらこの手のものに慣れているとはいえ熱いものは熱い。早く収まらないかとじっと耐える。ようやく収まると急いで羽をしまい辺りを確認する。建物のいたるところが黒焦げになり、蚊は全て焼き払われていた。
「いやー助かったよ」
そういえばと兄さんを見ると全身素っ裸で立っていた。おそらくさっきので焼き払われてしまったのだろう。
「兄さん、とりあえず前隠そうか」
さっとパーカーを脱いで兄さんに差し出す。
「おーサンキュー」
兄さんはパーカーを受け取ると腰に巻きつけていく。その様子をロボットは首を傾げて見ていた。
「ふふふっばーかねぇ」
今度は何事かと空を見上げると蚊のような怪人が1匹、私たちを見下ろしていた。
「その子たちは必要なくなったのよ。……だって」