第2章 天使の歌声
「セリ? セリ?」
トキヤが私の名前を呼ぶ声に
ハッと我に返る
『あ、ごめん。何の話しだっけ?』
「大丈夫ですか?何度も呼んでいたのに」
『へへ、大丈夫』
「それなら良いですが。あまり無理をしてはいけませんよ」
『うん。ありがと、トキ···HAYATO』
私達は今、映画の打ち上げ会場にいる。
シャイニング早乙女さんと話してから既に
3ヶ月が経過していた。
私に足りないもの・・・
その答えも出ていないし、早乙女学園の入学
もまだ悩んでいた
ふう、と1つ息を吐くと目の前にピンク色
のカクテルグラスが現れた
『わ!』
「クスッ、私ですよ。これ、セリが好きそうだなと思って持って来ました」
ニコッと笑うトキヤはきっと私のことを
心配してくれたのだろう
お礼を言ってからカクテルグラスを受け取った
『今回は私のわがままで出演してくれてありがとね』
カクテルグラスに入っていたピンク色の
飲み物を一口飲む
ほんのりと苺の味がするそれは喉を伝っ
て奥へと流れ込んだ
「お礼を言うのは私の方です。貴女のおかげで私は演技の勉強が出来ました。貴女より演技が上手い人は他にはいませんからね」
『HAYATO・・・』
「正直、主人公がトキヤという名前に複雑な思いを抱いていましたが」
『ふふ、映画のトキヤは妹のこと好きになっちゃったけどこっちのトキヤはそんなことないよね?』
「当たり前です。それに私に妹はいません」
顔を見合わせて2人で笑う
トキヤと一緒にいるのはとても心地よい
そんな私達の前に少し酔いが回っている
監督がやってきた
監督の顔は既に真っ赤だった
「HAYATOくんもセリちゃんもお疲れ様~♡」
私達は軽く会釈をする
「特にセリちゃんの演技はいつも最高だわ~♡私、ほんとにセリちゃんのこと気に入ってるのよ♡」
『嬉しいです。ありがとうございます』
監督の腕が私の肩へと回された
お酒の臭いが鼻をつつく
そして監督はコソッと耳打ちをしてきた
「セリちゃんさえよければこの後、どうかしら?」
この言葉の意味が分からない程私はバカではない
答えはもちろん No だ。
しかしこの監督の誘いを断れば今後の芸能生活に確実に影響が出る
何て返そうか困っているとぐいっと腕を引かれた