第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
クレイオ・・・
クレイオ・・・
ああ、聞こえる。
ロシナンテの声。
不思議。
貴方はそこにいないのに、貴方の声が聞こえてくる。
暗闇の向こうに光る、命の灯。
あの光には覚えがある。
沈没していく軍艦の間から見えた光だ。
ロシナンテ、そこにいるのね?
ありがとう、私の名前を呼んでくれて・・・
これで助けることができる。
手を伸ばせばそこには、人間の身体。
クレイオよりもずっと大きいが、ロシナンテほどではない。
「大丈夫・・・死なせはしないわ」
すると、彼が小さく呟いた。
「コラ・・・さん・・・?」
彼が口にしたその名が、いったい誰のものかは分からない。
だけど、クレイオの胸はフワリと温かくなった。
海は怒り狂ったようにうねっている。
彼の息ももうもたないだろう。
「私を信じて・・・諦めないで」
生きる事を諦めないで。
抱きしめたその身体から、懐かしい温もりを感じる。
ああ、そうか・・・
この人はきっと・・・・・・
「約束したから・・・貴方がもし海の魔物に襲われたら、私は津波よりも早く駆け付けて貴方を助けるって───」
ロシナンテに守られている。
だから・・・
「貴方の命はとても懐かしくて・・・愛おしい・・・」
彼の中でロシナンテが生きている。
そう思うと、この若い海賊がとても愛おしく思える。
そして何よりも、彼は途切れそうな意識の中でホリヨシの娘の名前をずっと呼んでいた。
大丈夫、心配しないで。
「彼女ならもう助けたわ。私の大切な恩人だから」
ホリヨシの娘のことは、ずっと見守ってきた。
彫り師の修行をしている時も、
ドフラミンゴと出会って両替商となった時も・・・
「不思議・・・貴方と私は同じ心を持っているみたい」
彼の中に感じる、愛する人の命。
ロシナンテはもうこの世にはいないのだろう。
だけど、彼の命はこの海賊の中に残っている。
彼の心は私とこの海賊の中に残っている。
「ロシナンテ・・・この人は絶対に救うわ。貴方を“二度”も死なせはしない」
クレイオはローを抱き直すと、水面に向かって力強く海水を蹴った。