第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
マリンフォード頂上戦争での白ひげの力によって変わってしまった天候。
目に映る景色はまるで地獄のよう。
彼の死からかなりの日にちが経っているというのに、誰も予想すらしなかったレベルの大嵐がシャボンディ諸島を襲っていた。
近くの者の声すら届かない暴風雨の中、誰かが必死に叫んでいる。
「諦める・・・わけにいかねェだろうが、クソが!!」
「キャプテン、何を・・・!!!」
一人の男が海に飛び込んだ。
だが彼は悪魔の実の能力者。
成す術もなく海の魔物に取り込まれていった。
「キャプテン!!!」
彼の仲間が心配そうに海を覗き込んでいる。
どうやったら助けられるか、そう考えているのだろう。
・・・遠くで・・・声が聞こえる。
“クレイオ・・・”
それはとても懐かしい声。
微かだけど、確かに聞こえる。
貴方が去ってから15年。
毎日、貴方の声を感じ取ろうとしているうちに、見聞色の覇気は自然と強まっていったわ。
だから、分かる。
「ロシナンテ・・・貴方はそこにいるのね」
船着き場には海賊達。
みんな絶望的な顔をしている。
「大丈夫、私に任せて」
海賊達は、突然背後から現れたクレイオに驚いたような目を向けた。
この嵐の中、海のそばを歩いている女性などいるはずがないと思っていたからだ。
クレイオは彼らの目の前で躊躇なく洋服を脱ぐ。
人間に紛れて生きるために着ていたものだが、本来は海の中で生きる生物。
裸の方がずっと楽だ。
ロシナンテ。
貴方の腕に抱かれてマリージョアの太陽を見上げていた頃は、まだ少女だった私だけど、今はもう尾ヒレが二股に分かれるほど大人になったわ。
地上も自由に歩けるのよ。
30歳になると尾ヒレが二股に分かれて、地上を歩くことができる神秘の種族───人魚。
「二人は必ず助けるわ」
ハートの海賊団のクルー達にそう約束し、荒れ狂う海の中へ飛び込む。
その背中には、15年経っても色鮮やかなヒマワリの花が描かれていた。