第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
街に出ると、そこは見るも無残なことになっていた。
ところどころで海兵達が気絶しており、島の人々は家の中で怯えきっている。
サンジを見送るために一緒に歩いていたクレイオは、その有り様を見て眉をひそめていた。
「おー、サンジー!!」
港に戻ると同時に、サニー号の船首に立っていたルフィがサンジに気が付き、手を大きく振ってきた。
「ルフィ、みんな! 待たせたな、もう大丈夫だ!」
海軍はほぼ全滅している。
自らの軍で島を守るはめになった国王の近衛兵が、ほとんど戦意を喪失しながらも“麦わらの一味”に武器を向けているだけだ。
「よっしゃ! サンジが戻ったし、出航するぞ!!」
船長の号令に、地上で国王軍と戦っていたフランキー達が船に上がってくる。
途中、ゾロが後ろを振り返り、野獣のような瞳を島の人々に向けた。
「おい、ルフィ。残りの敵はどうする? 追ってこれねェようにするか?」
「ん?」
ルフィがうーんと首を傾げたその時だった。
「も・・・もう、やめてください!」
サンジの隣にいたクレイオが国王の軍隊の前に立ち、“麦わらの一味”に向かって両手を大きく広げる。
「ショーフ?」
キモノの袖を揺らし、その細い腕で海賊からを島を守ろうとする娼婦の姿に、街の人々は言葉を失った。
「これ以上、この島の人を傷つけないでください・・・!」
暴力は何も生み出さない。
生み出すのは“悲劇の連鎖”。
貴方達の強さはもう痛いほど分かっている。
ただ、この島の人達は出した武器を引っ込められずにいるだけだ。
すると、“黒足のサンジ”が船の前から島の人間を見据えた。
「お前ら、この美しくて心優しい娼婦ちゃんの姿を、よォく目に焼き付けておけよ」
どんなに蔑まれても、罵られても、彼女は常にこの島のことを思ってきた。
それは、本来ならば“王女”として育てられるはずだった、彼女の持って生まれた気質だろう。