第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「いいや、席は用意してもらう」
サンジはその場から一歩も動かず、煙草に火をつけながらウェイターに冷たい瞳を向けた。
「テメェの都合で客を追い出すとは・・・お前にレストランで働く資格はねェ」
それはサンジにとって、もっとも許しがたい行為。
そして、そんなウェイターに対して文句も言わず、彼のために店を出ていこうとするクレイオに、胸が締め付けられる思いだった。
「テーブルだけ用意しろ。料理は出さなくていい」
「は・・・?」
サンジはジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。
「おれはコックだ。クソなってねェ従業員のサービスなんざ、こっちから願い下げなんだよ」
キッチンを使わせてもらえればいい。
あと、食材も捨てる部分でいいから、クレイオの胃を満たすに十分な量だけ。
それで最高のフルコースを用意してみせる。
「サンジ・・・貴方、コックさんだったの?」
「そうなんだ! とびっきりおいしいものを作るから、ちょっとだけ待っててね!」
ウェイターには凄んでみせるサンジだが、クレイオに話しかける時は甘い声。
やはりそこは徹底しているようだった。
「てことだ。拒否したらこの店ごとオロすぞ」
「ひ・・・」
「さっさとテーブルを用意しろ」
ここで無理に追い返そうとしたら、娼婦に世話になっていたことを周囲に知られるばかりか、店にも迷惑がかかる。
そうなったら、家族と職の両方を失いかねない。
「・・・分かりました、ではお席だけ用意いたします」
ウェイターは仕方なく、クレイオを店の奥へと案内した。