第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
「サンジ、どうしたの?」
建物の窓から零れるわずかな光でそれがサンジだと知ったクレイオ。
客との情事を見られたというのに、慌てる素振りはまったくない。
・・・彼女にとってこれは、呼吸をすることのようになんでもないことなのだろうか。
「今のは・・・いったいなんだ」
「なんだって、仕事だけど」
口の端についた精液をハンカチで拭いながら微笑む。
そんなクレイオを見ていると、怒りと同時に悲しみを覚えた。
もちろん、怒りはあの男に対して。
そして、悲しみはクレイオに対して。
「あの人はお得意様。私のフェラチオが好きって言ってくれて、いつもここで───」
「もういい」
どうして笑っていられるんだ?
あの野郎は君のことをまるで性欲を鎮めるための玩具のように扱っていた。
おれにはどうしても理解ができない。
「クレイオちゃん、この後・・・時間はあるか?」
「ええ・・・約束しているお客さんがいたんだけど、時間になっても来ないから」
昼間もクレイオに会いにきていた海軍大佐。
今夜も来ると言っていたのに姿を見せない。
“海賊なんぞに指一本触れさせるか。お前を買う暇など与えずに我々が捕まえる”
そう息巻いていた彼だが、“麦わらの一味”の船長を食事中に捕まえようとしたのが運の尽きだった。
ルフィの怒りを買い、その場で部下を全滅させられただけでなく、自身もたまたま鉢合わせしたゾロに斬られて病院送りとなっていた。
「私を買う気になってくれたの?」
ニコリと笑うクレイオに、サンジは首を横に振る。
「いいや。でも、春島の夜はとても星が綺麗だ。君のような素敵なレディーと一緒に眺めることができたら、さらに輝いて見えるだろう」
不思議そうに首を傾げるクレイオに、今度はサンジがニコリと笑う。
「一緒に食事でもどうだい?」
そう言って、持っていたバラの花束を差し出した。