第2章 新選組
文久四年 一月──。
「おーい、はじめー」
「何か用か」
あれから、私はすっかり此処での生活に馴染んでしまったようだ。順応性が高い、とでも云うのであろうか。
雪村千鶴という女子は、まだまだ軟禁生活のままらしい。…が、土方達が昨日の早朝から出張らしく今はいないので、どうなるかは分からない。
鬼の居ぬ間に何とやら、とな。とは思いつつ、自分は本物の鬼なのだが。
「今日の朝餉、一が作ったのであろう?毎度の事ながら、お主の作る料理はとても美味だ。私には到底真似できぬよ」
部屋に入ってきた彼を、何気無く褒めた。
一は…何というか、可愛いと格好いいを半分ずつ足した感じだと認識している。
総司を猫と例えるならば、一は犬か狼だな。
「…あぁ。また作ろう」
驚きつつも、そう言って綺麗に微笑む彼は、とても綺麗であった。女子と言われても決して否定せぬ程に。
これを口にすれば怒られることは目に見えているので言わないがな。
「もしや…一は今日、非番なのか?」
「そうだ。今日は平助と左之の隊が巡察だった筈」
真面目な彼は、そういう事をきっちりと頭に容れていて、知っている事ならば大体答えてくれるから、こういう事は彼に聞くのが一番早いと感じる。
「では、一は今暇か?」
「任務は全て済ませてある」
暇なのだな。一はこうやって、私の話し相手をしてくれる事が多い。優しい者だ。
「……一」
「何だ」
実の所、私もまだ軟禁状態である。軽いと言えば寧ろ軽過ぎる方だと思うがな。
「長らく正座していた故、恥ずかしながら、足が痺れてしまった」
「…大丈夫か?」
手を貸してくれる一は、本当に優しい子だと思う。
「すまないな…」
一の手を支えとして、ゆっくりと立ち上がろうとした…丁度その時だった。
「弥生ちゃん?」
「?は、ん…?‼」
「!?」
総司が、いきなり障子を開けた。それに少なからず驚いた私は、うっかり痺れた足に力が入らなくなってしまい…
「った…!」
「っ…」
この状況である。よりにもよって、一が私を押し倒す形となるとは、誰が予想できたであろうか。
「二人ともいつまで見つめあってるのさ!一君は早く弥生ちゃんから離れてよね!!」
「わ、悪い…」
やがて、一は罰が悪そうに謝ってきた。
私といえば、未だに痺れる足に涙目になっていた。