die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第25章 episode.25
「はぁ……はぁ……」
林に入って、しばらく走った。
どこに居るのが安全か、私には分からない…。
けれどこの辺で休憩しよう。
いざと言う時に走れないって訳にはいかないんだから。
大木の幹に身を寄せ、座り込んだ。
しんと静まり返った辺りの空気は時間が止まってるみたい。
私だけが息を上げてこうして動いてる。
ふと気づくと、手首の蔦が力を失ったように緩くなっていた。
切れた事で少ししおれたのかな、結び目が緩くなっていて簡単に解けた。
この数日、ついさっきまで繋がれていた先の人は、今は居ない。
残った蔦の残骸と手首のあざをしばらく見つめていた。
蔦はかばんのヒモに結びつけた。
お守り代わり。
「レイジさん、まだかな…」
そうだ、短剣。
念のため出しておこう。
かばんに手を掛けたその時だった。
「グルル…」
「…!」
かすかに魔物の声。
まだ上がる息をひそめようと努める。
魔物の声は一匹じゃないように思えた。
まさか…囲まれてる…?
仲間が来たのかな…。
とにかく動かないように…
「がう…!」
「っ…!」
背後から魔物の声がして、反射的に目を閉じた。
土を踏む魔物の足音がする。
結構近くに居るみたい。
ど、どうしよう。
今更走り出た所で逃げ切れる訳がない。
木に登る…?
唐突に、そんな事出来る?
でも…魔界の生き物だし木登りだって難なく出来てしまったら逆に逃げ場がなくなる…。
どうしたら…。
その時、私の左手側の暗闇の茂みが大きくガサガサと音を立てた。
「きゃ…!」
つい声が出てしまう。
また固く目を閉じた背後からは、さっきまでと違う声が聞こえた。
「ギャ!」
「キー…!」
魔物たちの弱々しい声が辺りに響き、次々と走り去ったみたい。
どう言う事…?
レイジさん?
「おい、お前…!大丈夫か」
誰かの声がして、また身を固くした。
「だ、誰っ…?」
ガサガサと草葉の擦れる音とともに、影が動いた。
一瞬、月明かりを反射するように見えた白い毛並みが、別の獣にも見えて心臓がどきりとする。
聞いたことのある声…?
困惑する私の目の前に現れたのは、獣ではなく人影だった。
「す、スバルくん…?」