die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第25章 episode.25
あれ……、落ちて…ない…?
思っていた痛みは何一つなく、恐る恐る目を開けた。
「レイジさん!」
「まったく…。私の言う事をすぐに聞かないからですよ。立ちなさいと言ったと言うのに…」
レイジさんはやれやれと言う口調で、でも少しほっとしたような表情で私の腕を掴んでいた。
「もしかして…蔦が…?」
「ええ、この蔦を引き寄せた事でなんとか落下は免れました。これが無かったら危なかったでしょうね」
魔物は手で目の辺りをこすりながら怯んでいる様子だ。
私は力を込めて立ち上がった。
レイジさんが腕を引き寄せてくれたから、思ったより身体が軽かった。
レイジさんはさっき川を渡った時のように少し浮上していく。
「今魔物が怯んでいるうちに…そのまま私に身体を預けてください」
言われるまま、私はレイジさんに抱き着く形で身を預け、レイジさんは私の身体を腕で支えてくれた。
「そのまま、掴まっていてください。あまり長くは飛んでいられませんが…しばらくはこのまま移動しましょう。その方が安全でしょうからね」
「はい」
私は大人しく返事をした。
「ウー…」
「きゃ…」
眼下の川から、さっきの魔物が相変わらずこっちを狙ってる。
「しつこいですね、あっちへ行きなさい」
「ワグ!」
魔物は、垂れ下がっていたふたりを繋いでいる蔦に噛み付いた。
唸り声を上げながら激しく引っ張るように噛みついている。
「…っ、よりによって…!」
このまま、降りるわけにもいかないし、かと言って進む事もできない。
どうすれば…。
私はレイジさんにしがみつく事しか出来なかった。
蔦は魔物の牙で少しずつ傷んでいるように見える。
あれだけ切ろうとしても切れなかった蔦だけど、もしかしたら魔界の魔物の牙なら切れちゃうかもしれない。
「蔦が切れたら、このまま飛行を続けてこの場を去りましょう」
「はい」
私に出来そうな事といえば、せめて落ちないように確実にレイジさんにしがみついておくくらい…。
「っ、切れそうです」
魔物の牙が蔦を食いちぎった。
このまま進んで行くかと思った次の瞬間、
「ぐっ…!」
レイジさんが苦しそうな声を上げた。