die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第25章 episode.25
身体に何かがぶつかる衝撃を感じた。
「っきゃ…」
足元の石がごろごろと不安定なせいで、バランスを崩した私はその場に転んでしまった。
ぶつかって来たものは、バシャっと音を立てて川の中に着水したようだ。
「っ!マイ、大丈夫ですか?」
レイジさんが地面に座り込む形になった私に気付き、立ち上がらせようとしてくれている。
「は、はい……痛た…」
視界の先に、獣のような魔物が、水から上がって来ながら私達を見据えていた。
怖い……。
背中がぞくりとして息を飲んだ。
薄暗いこの場所よりもっと影のように真っ黒で、グルル…と唸っている姿は、黒ヒョウのようにも見えた。
「くっ、いつのまに…」
獲物を得るためには、きっとこの魔物だって死に物狂いだ。
物音を立てず、この横の雑木林に身を潜めて機会を狙っていたのだろう。
レイジさんは私とその魔物の間に立ちはだかった。
「去りなさい。今、すぐに」
「グルル……」
静かな睨み合い。
一瞬、魔物は怯んだかに見えた。
だけど次の瞬間、ガウ!と鳴き声を上げて、こちらに飛びかかって来た。
私は思わずぎゅっと目を閉じてしまった。
「くっ…!やめなさい…!」
レイジさんの腕が魔物を振り払った。
「グァ…!」
それでも相手は何度も噛み付こうとしてくる。
「貴女、立ちなさい…!」
「は、はい…」
恐怖から、呆然としてしまっていた。
腰が抜けたように、力が入らない。
た、立ち上がらないと…!
力が入らない上に足元が不安定で、すぐに立ち上がれない。
座り込んだまま、少し後退する。
背後でガラッ…と音がした。
「きゃ…」
落ちる!?
そう思った瞬間、目を閉じた。
滝の水、身体に当たる岩、頭をよぎって身を硬くした。