die Phasen des Mondes【ディアラヴァ】
第23章 episode.23
目の前まで来たその人物は、動けずにいる私の手を取るとおもむろに手の甲に口を近付けた。
目の前で繰り広げられたそれは、優雅な空気を纏っていてスローモーションのように私の目に映った。
「…ふふ、なるほど…」
笑みを浮かべて、納得したように頷いている。
「あ、あの…っ」
手を振り払う訳にも行かず、どうして良いか分からずに居た。
もしかするとこの人は…。
その時、部屋の入り口の方から声がした。
「父上…。
こちらから伺うと申し上げたじゃありませんか…。
時間になっても現れないので、少し探しましたよ」
「レイジさん…!」
じゃあ、やっぱりこの人が……?!
目の前の人とその向こうに居るレイジさんの顔を交互に見る。
「まさかとは思いましたが、既に面会していたのですね」
「別に問題はないだろう?
ふふ、ご挨拶をしておきたくてね…」
「し、失礼しました。
ご無礼をお許し下さい」
私は慌ててカーテシーをしたけれど、あっけらかんとした声が返ってきた。
「ふふふ。
そんなにかしこまらなくても大丈夫」
「父上、この部屋では何ですから、場所を移しましょう」
レイジさんがそう提案するも、目の前の彼は飄々とした様子で動こうとはしなかった。
「はっは。
まぁまぁ、いいじゃないか。
ここでも充分話は出来る。
さ、どうぞ腰掛けて」
さっきまで座っていた椅子に、座るよう薦められて困っていると、レイジさんが声を掛けてくれた。
「構いませんよ。
掛けて下さい」
「は、はい…」
私は恐縮しながら椅子に掛けた。