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煌めくときにとらわれて【流川】

第2章 アパートにて


一人暮らしを始めてから半年が経った。
家事を自分ですることが当たり前の日常に慣れ、今日も仕事から帰ってきた私は晩ご飯の支度をしていた。

ピンポーン

ふとインターホンのチャイムが鳴った。
今日は宅配も来客もないはずなのに。

「誰だろう…」

不審に思った私はインターホンには応えずにドアに近寄って、覗き穴から玄関の外を見てみる。

「え?楓?」

そこには幼馴染が立って待っていた。
ゆっくりとドアを開けてあけてあげる。

「ウス」

「どうしたの?突然来て…」

楓が私のアパートに来るのは引越しを手伝ってもらったとき以来、初めてのことだ。
学ランを着てスポーツバッグを背負っている。
どうやら学校帰りらしい。

「自転車、駐輪場に置いてきた」

「それはいいけど…まあ、とりあえず上がっていいよ」

何をしに来たのかは答えない楓を見かねて、部屋の中へと案内した。
部屋の中に入れた楓は立ったまま話を始めた。

「明日、他校で練習試合がある」

「へー、そうなの」

「朝、駅に集合。オメーんちのほうが近いから、今日は泊まる」

「…は?」

何を言い出すのかと思えば。
確かにこのアパートのほうが楓の家よりも駅には断然近い。
だからといって、家主である私に事前の断りもなく泊まりにくるなんて。

「なに勝手なこと言ってるのよ」

「あと、今日ウチに誰もいない」

「あんた、もう夜ひとりでも大丈夫でしょ。それに着替えとかないんだから」

「着替え持ってきた」

楓は背負っていたスポーツバッグを手前に移動して掲げ上げた。
どうやら、この中に着替えを入れてきてるらしい。
完全に計画犯じゃない。
私は呆れて溜め息が出る。
楓はそれ以上は語らず、じっと私を見ている。

壁に掛けてある時計をちらりと見てみれば、すでに8時を回っていた。
こんな時間だし、自分を頼ってきたのを追い返すのも何だか気が引けてきた。

「しょうがないわね。もう今日は泊まっていいから」

仕方なく許してあげると楓は少し目を見開いて「おう」と頷いた。
あまり表情には出てないけど、楓は安心したようだった。

こういうところも楓は小さい頃と変わらない。
なんだかんだ世話を焼いてしまう私も変わっていない。

思わず笑ってしまった私の顔を不思議そうに見る楓に「先にお風呂入ってきなよ」と促してから、私は晩ご飯の支度を再開した。
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