第1章 年下の幼馴染
引越しの日曜日、天気は予報通り晴れだ。
正午をまわる頃、お隣の流川さん宅のおばさまに「楓くんをお借りします」と挨拶を終えて、門から出たところで、部活から帰ってきた楓に出くわした。
「おかえり。部活お疲れさま」
「シャワー浴びて着替えてから行く」
「うん。母さんが楓の分もお昼用意してるから、ウチで食べなよ。おばさまにも言ってあるからね」
楓がコクリと頷いたので、そのまま「じゃ、また後で」と手を振って私は家へ戻った。
休日に楓と行動するなんて、一体何年ぶりだろうか。
ウチで楓と一緒にお昼ご飯を済ませて、早速引越し作業に入る。
自分の部屋から荷物を詰めたダンボール箱を車へ運び出してるのだけれども。
「…重っ。これは無理だわ」
最後の一つ、主に本を詰めたダンボール箱が重すぎて私一人では持ち上がらない。
これは楓と二人で運ぼうと考えてるところに、他のダンボール箱を運び終えた楓が戻ってきた。
「楓、これ運ぶの手伝ってほしいんだけど」
声をかけると楓はズカズカと歩み寄ってきて、ダンボール箱に手をかける。
「…えっ?」
一緒に持ち上げようと私が手をかける前に、楓は一人でダンボール箱を持ち上げてしまった。
驚いた私を楓は涼しげな顔で見下ろす。
昔から変わらないはずの切れ長の目。
なのに目が合った瞬間、何故かドキッとしてしまった。
「なに?」
「いや、それかなり重たいから、一人だと大変じゃ…?」
「どあほう。このくらい持てる」
その言葉通りに楓はダンボール箱を持ったまま、何の苦もなくスタスタと歩き始めた。
呆然としていた私は手ぶらのまま慌てて楓の後を追う。
楓のことは赤ちゃんのときから知っていて、私にとって10歳も年の離れた小さい楓は世話を焼いて見守るべき存在だったのに。
それが今では、私ができないことまで軽々とできてしまう。
まだ高校生って思ってたけど、ちゃんと男になっていってるんだ。
楓の大きな背中を見上げながら、私は楓の成長ぶりを感じたのだった。