第1章 ひと言の勇気 _前篇_
「お客さん!!
酔っぱらってたから連れてきたよ。」
そう言うと
可愛らしい女性が
こちらに駆け寄ってきた。
「いらっしゃい。
お水、入れますね。」
優しく微笑み
鞄にかけていたスーツの上着を
そっと持ってくれて
そのしぐさに胸が熱くなった。
「見慣れない顔ですね。」
「えっ!?
常連じゃないの!?」
相葉さんが慌てて
持っていた帽子を落としてしまった。
その姿を見て
思わず笑ってしまった。
「だからいつも
確認してから行動しなさいって
言ってるでしょうが、相バカさん。」
「その名前で呼ばないでよ!」
カウンターキッチンで珈琲を入れながら
こちらを見ずに男性が毒舌を吐いた。
彼の前にあるカウンター席は
女性で埋め尽くされていた。
「ごめんねぇ…。
もう電車、回送出しちゃった…。」
「バスも終わったし…
車で送りましょうか?」
帽子を拾い
頭を掻きながら困り顔をし
両手を合わせる相葉さん。
それを聞いて
女性が気を使ってくれた。
「なんか酔いさましだしたら。
酔ってるみたいだし
それに、これで帰したら
失礼すぎますよ。」
珈琲を入れ終わり
カウンターキッチンから出てきた
あの男の人がこちらに寄ってきた。
「そうね。
店のおごりで。」
女性は俺の腕を掴み
窓際の二人掛けのソファーに
座るよう促した。
「じゃあ…お言葉に甘えて…。」
俺はなぜだか
ココの雰囲気に引き込まれて
少しだけいることにした。