第3章 ひと言の勇気 _後篇_
「後悔を消すためには
後悔の原因となった人に
消してもらうのが一番です。」
和也さんはそう言うと
波留さんと竹内を連れ
奥の部屋へ消えてしまった。
「和也さんに、
先生の居場所を教えてもらったんです。
僕も、ここの常連なので。」
ゆっくりこちらに歩み寄り
隣のカウンター席に座り
体を俺の方に向けた。
「櫻井先生
教師、辞めるそうですね。
…、僕のせいで。」
「圭人…。
それは、その…。」
「僕は、音が嫌いでした。」
その言葉に
胸がグッと締め付けられる。
「でも、社会に出てわかったんです。」
「いつか聞こえなくなる。
音を聞こえる感覚を覚えたら
聞こえなくなったときに辛いだけだ。
そう思って逃げてきました。」
圭人は
俺の手を取って
涙を零しながら俺を見た。
「でも、逃げてちゃダメなんです。
逃げたら、そこでずっと止まっちゃう。」
「あの時の僕は、努力をしませんでした。
ただ、聞こえなくなる未来ばかり考えて。
努力は報われないって思ってたから。」
圭人は涙を拭い微笑む。
「でも、成功している人は
みんな努力してるんですよね。」
あの時、あの六年前のまま
歩みを止めていたのは俺だけなんだ。
圭人はこんなにも成長してる。
「もう、僕のことで
そんな顔しないでください。
櫻井先生が泣いてるときにも
誰かが笑顔で待ってる。
先生の笑顔を
あの教室で、みんな待ってるんですよ。」
圭人は立ち上がり
深々とお礼をし
店を後にした。
「先輩…?」
竹内が奥の部屋から顔をだし
涙でグチャグチャな顔の俺に
そっとハンカチを差し出した。
「無駄な努力は、ないんだな。」
もう、逃げるのはやめよう。
俺も、圭人みたいに
成長しなきゃな。