第1章 猫
「…坂田さん?」
左腕を確かな重みが移動して。
更に身近に気配を感じる。
「アレ?寝言?」
「寝言じゃありません」
「じゃあ、目を開けてください」
「……見るのが怖ェ」
「何故?」
「だってよ…」
「……」
「猫に化かされてんの?」
「………」
「最期に逢いに来てくれたとか、」
マジで無理だわ。
この目で確認したら、現実になっちまう。
夢であってくれと、願ってしまう。
「坂田さん」
「はい、坂田です」
「ねぇ、坂田さん?」
「ん?」
「銀さん」
「ん~?」
「目、開けて?」
可愛い声に誘われ。
観念して、ゆっくり目蓋を上げる。
お願いを断るなんてできない。
視界に映るのは。
ずっと待ってた、焦がれた女。