第1章 猫
「あのォ」
勇気を振り絞って声を出す。
目が開けられないまま。
断じて怖いわけではない。
「あのォ、お休み中にすみません」
遠慮がちに数回繰り返して。
「あの…ちょっといいですか?」
って言うか、誰ですか?
どちら様ですか?
何様ですか?
マジで俺の腕から退いてぇぇぇ!
存在感ハンパない現実的な重み。
怖くなんて………怖ぇぇぇぇぇ!
「あの、本当、マジで、」
焦りで喉がカラカラだ。
いっそ、そのまま消えてくれ。
300円あげるから。
「坂田さん…今、何時ですか?」
『ぎゃぁぁぁああああ!』
喋った。
声、出した。
人間か?
幽霊か?
無理ィィィ!
………。
ちょっと待て。
「坂田さん」って言った?
俺を「坂田さん」って呼んだよ?