第11章 紹
「お土産、ありがとうございます。三人で頂きますね」
メガネなりの気遣いだろうが。
ここで一つの勘違いが生まれた。
俺と朱里の関係について。
何も答えてないのに、簡単に引っ掛かりやがる。
「沖田さん、」
曖昧に笑ったままの朱里が口を開いて。
「もう、帰りたい」
そう言った。
同時に、階段を上る人の気配があって。
「何?お客さん?」
やっと、真打ち登場だ。
俺は咄嗟に朱里の腰を引き寄せて。
「違いまさァ。ウチのが偉く世話になったらしいんで、挨拶に」
俺と認識した旦那は、片眉を上げて。
「ふーん」
紙袋を抱えたまま、玄関まで進んできた。
それをそのままメガネに渡して。
「…………」
朱里の耳に、口を寄せた。
旦那の前では、しおらしい顔しやがる。
『いいひと』という単語だけが聞き取れたが。
他の会話がさっぱりだ。
朱里は会話の途中で、一度だけ小さく首を振って。
空いた右手で、旦那の袖を掴んだ。
旦那は空いた右手で、朱里の頭を一撫でして。
「俺といるときは、こんな顔、見せたことなかったけどねェ」
目が合ったときには。
「沖田くん、もう帰っていいよ」
口調は普段と変わらず。
死んだ魚の目は、獲物を狙う猛禽類のそれで。
「あとは、万事屋が引き受けるわ」
それ。
そんなに殺気放って言う台詞じゃねェよ、旦那。