第10章 文
家の中をさ迷うみたいに。
その痕跡を巡る。
いつも座っていたソファの定位置。
今まで気にしてなかったけど。
ココ、万事屋の中が、良く見える場所なんだな。
そういうことか。
お気に入りって、言ってた意味。
「……ん?」
机の上に置かれた封筒。
新八、俺、神楽の各々に宛てた。
三通の手紙。
真ん中にある自分宛の手紙を開いて。
その流麗な文字に触れる。
「達筆すぎんだろ……」
年頃の女のコが書くには、似合わない。
筆で認められた文。
坂田 銀時 様
長い間、私の我儘にお付き合い頂き、
ありがとうございました。
みなさんと万事屋で過ごした時間、
とても愉しく、充実していました。
あれだけ一緒に過ごしても、
甘い香りの正体が掴めないまま……
それが心残りです。
次の任務は辺境の星に出向くことに
なっています。
暫くお会いすることができませんが、
戻ったら、必ずお礼に伺います。
好きなだけ、
チョコレートパフェを食べてください。
一緒に甘味処に行きましょう。
坂田さんと眠った時間。
子どもの頃から苦手な
怖い夢を見ることがありませんでした。
いつも安心して眠ることができました。
甘い香りを理由に、
無理なお願いをしたこと、
今になって、申し訳なく思っています。
坂田さんの傍は、とても居心地が好く、
離れ難い場所でした。
最後の最後まで、
私の願いを受け入れてくれて、ありがとう。
朱里