第10章 文
狡いな、朱里ちゃん。
こんな手紙一つで。
会う口実を、作るなんて。
俺の心臓、鷲掴みにして。
簡単に揺さぶれると思ったら、大間違いだよ?
銀さん、もう大人だから。
チョコレートパフェに釣られたり、しないよ?
『彼はスイーツ苦手』なんて。
そんなん、駄目だからな。
『彼も一緒に』
それは、もっと駄目だわ。
たぶん、パフェが喉通らない。
彼を紹介される、お父さんの気分で。
味がわかんねェよ。
俺には何も、言わせてくれねェのに。
何で手紙なんて、残すかねェ?
普通に顔出して。
他愛のない話をして。
いつものメンバーで飯食って。
それじゃ、駄目なの?
そういう関係には、なれないわけ?
離れ難いなら。
「嫌だ」って。
言えば良かったじゃねェか。
怖い夢を見るから「嫌だ」って。
甘い香りの正体を掴むまで。
「嫌だ」って。
「違ェな……」
「嫌だ」を言うべきは、俺か。
文句言いながらも、心地好い時間を貰ってたのは同じだ。
朱里ちゃんと眠る日は。
『あの頃』の夢を見ることがなかった。
鮮明な赤が、瞼の裏を汚すことがなかった。
規則正しく穏やかな寝息と。
後ろから回された細い腕に。
守られてたのは、俺の方だ。