第9章 秘
「なぁ……朱里ちゃん」
俺の呼び掛けに、心底驚いた顔をして。
「初めて、ですね。
ずっと、願ってた…
その声で、
名前を、呼んでくれること」
心底幸せそうに。
肚の底のドロドロの願望が。
そんな些細なことなら。
もっと早くに気づいてやれば、良かったな。
茶番に付き合わせて、悪いことしちまった。
俺も願ってた。
あんたがそうやって、笑ってくれること。
たぶん、欲しくて仕方がなかった。
やっと、手に入った。
だから言うよ。
「これで終いにしようや、この関係」
言うと決めていたこの台詞を。
あんたから言えないだろうから。
俺に言わせてくれ。
何度も言ったはずだ。
『女のコなんだから、危機感持て』って。
『男は皆、ケダモノだよ』って。
『銀さんだって、男の子なんだから』って。
教えてやったのに。
お前は馬鹿なの?