第9章 秘
新月の晩。
仄暗い部屋。
枕元に座る影。
俺は眠い目を数回擦って。
「どーした?」
寝転んだまま、視線だけを向ける。
今日はいつもみたいに、抱きついてこねェのな。
「坂田さんの寝顔を、見てみたくて」
その声は。
少し震えていた。
一緒に過ごした時間は短いけど。
初めて会ってから、結構な時間が過ぎてんだ。
その声が、いつもと違うことくらい。
隠したって、判っちまう。
その程度には、俺達、深い仲だろ?
男ができたって知って。
正直、驚いた。
男所帯にいて。
引く手あまたじゃねェのかって。
何で、ココに戻ってくるのか。
いつも、不思議だった。
見た目は、普通の女のコで。
長い刀と、重い銃をぶら下げて。
ちょっと物騒だけど。
男に対しては危機感が足りない。
俺に対しては。
それも皆無。
甘い香りを名目に。
散々迷惑掛けられた。
でもよ、悪い思い出ばっかじゃないぜ?
俺も、アイツ等も。
愉しい時間、もらったわ。
お前に男ができた。
このタイミングが。
『潮時、だよな…』
俺は左の肘で身体を支えて。
寝そべったまま、右手を差し出す。
表情が伺えない右の頬を撫でて。
「なぁ……朱里ちゃん」
初めて、その名を呼んだ。