第8章 再
「仕方ねェだろ。着替え持ってないんだから」
銀さんは何気なく言うけど。
僕が言ってるのは。
『何で着替えが必要になるか』ってことです。
朱里さんの家、すぐそこなんですよね?
「今、洗濯してっから、いいじゃねェか。小舅かお前は」
面倒臭そうに、耳に小指を入れて。
「洗濯物見てこい、お前は本当に、」
小指にフッと息を吹き掛けて。
「チェリーみたいな考え止めなさい」
ニヤリと笑う。
…無駄に格好良く見えるんですけど?
何ですか、その大人の余裕。
無性に腹が立つんですけど。
僕が言いたいのは…。
結局、どう解決したか、なんです。
きっと、いつものように。
銀さんは教えてくれないだろうけど。
「新八ィ、暇なら手伝うネ」
台所から神楽ちゃんの声が響いて。
お醤油の匂いが、鼻を擽る。
「新八は妄想で忙しいから、銀さんが手伝うわ」
普段は動かないのに。
椅子から立ち上がって、台所に歩いて行く後ろ姿。
いつもと違うのは、どこだろう?
必死に探すけど。
全然、判らない。
「お前が気に病むようなことは、何もねェよ」
目を閉じて思案する僕の耳に。
すれ違い様聞こえた銀さんの声は。
穏やかで、優しい声音で。
僕の妄想が間違っていたんだと。
そのときは、思ったんだ。