第1章 猫
「かぐや姫より、遠くに行っちまってんだろーな」
白い月。
いつもより鮮明に見える。
電気も点けずに、ただ眺めて。
そのまま時間を遣り過ごし、猫が寝入ったのを確認してから布団に下ろす。
それから着替えて、歯を磨いて。
酔いが完全に覚めた状態で床につく。
寝ていた猫が、巧いこと転がって。
俺の枕に頭を乗せた。
「オイオイ、寝相の悪い嬢ちゃんだねぇ」
それでも、出会って数十分の存在に。
妙な安心感を貰って。
俺は猫と仲良く並んで眠りについた。
「ん…」
月も傾いて。
十分、夜が更けた頃。
左腕に感じる重み。
腕枕って、想像以上に辛い。
愛しい女にするなら最高だけど。
だって、布団の上の距離が一気に縮まる。
その手で引き寄せて。
この腕に閉じ込めることが可能なんだから。
今日は、隣に綺麗な黒猫がいるはずで。
すげぇ肌触りのいい毛皮と一緒のはずで。
だから、この重みはないはずで。
……目を開けられないのは。
断じて怖いからじゃない。