第7章 眠
今日の汚れを排水溝に流して。
その日一日がリセットされればいいのになぁ。
鏡の前で歯磨きしながら。
ぼんやりと、そう考えた。
部屋に戻ると。
和室の前に立ったままの女。
「電気消すぞォ。布団入れ」
照明を落として、歩み寄る。
「あ?どーした?」
隣に並んで、見下ろして。
襖を開ければ。
一組の布団。
意識してない体を装って部屋に踏み込むと。
ぽすっと音を立てて。
背中に柔らかい感触。
腰に回された腕。
「オイオイ、添い寝じゃねーだろ、コレ」
ゆっくり外して。
「布団まで待てねェの、お前は」
そう言って、俺は布団を捲って。
何事もなかったように寝そべって。
自分の隣をポンポンと叩いて。
「お前はココ」
ぶかぶかの俺の寝間着の裾を掴んで。
暗がりを布団の横まで歩いてくる。
部屋の奥側が俺。
入口側がお前。
いつでも逃げれるように、俺なりの配慮。
どう?
銀さんのこの優しさ。
抱き枕役とは思えない優しさ。
「よろしくお願いします」
畳に正座して、三つ指立てて。
そんな律儀なことしなくても。
本当に初夜みたいな空気になっちゃうだろーが。
…嫁さん貰ったら、こんな?
そういう妄想入っちゃうだろーがァァァ。
「そーいうのいいから。早く布団に入りなさい」
さっさと寝て。
さっさと終わらせて。
明日の朝飯について、考えよう。
決して。
断じて。
逃げ腰なんかじゃない。
誰か、助けてくれェェェ!