第1章 猫
「…寝るか」
酒量が少なかったのか。
酔って帰った日とは違い、部屋が妙に静かで。
猫が居なければ、寒々しいと感じたかもしれない。
神楽と定春が居なくて清々すると思うことが多いのに。
日付変更前に帰ったこの日は、人肌恋しい気分だ。
「まぁ、相手はいねぇが…」
呟いた俺を見上げて。
猫は、体を撫でる俺の指を舐めた。
もしかして、慰められてる?
「馬鹿、お前、違うからね?」
今日の占い、1位だったし。
ラッキーアイテム、コーヒー牛乳だったし。
朝昼晩で、2リットル消費したから。
今は。
恋愛運が低迷してるだけだから。
そういう星回りなだけで。
長く続きすぎてるけど。
待ち草臥れた感はあるけど。
「俺だって、寂しいわ」
ゴロゴロと喉を鳴らしていた猫は。
俺の膝に、ちょこんと顎を乗せて。
頬を擦り寄せる。
「慰めてる?そんなに可哀想に見えちゃってる?」
今度は前足を乗せて。
「にゃー」
と小さく鳴いた。
「醸し出してんのか」
動物には、第六感があるなんて言うが。
見抜かれちゃってんの?
このロンリーハートを。
優しいボディタッチなんて技、使いやがって。
「男のツボを押さえてんね、お前」
どっかのキャバ嬢より、数段上だ。
膝の上の頭を撫でてやると。
猫は目を細めて、もう一度鳴いた。