第5章 香
「壱萬円で売ってやれヨ、銀ちゃん」
その晩、神楽ちゃんは銀さんと朱里さんを座らせて。
布団売却について、交渉をはじめた。
「朱里は、オッサンの臭いがする布団で良いアルか?」
「傷つくからやめてくんない?」
「真面目な話しネ。一点モノで返品不可、枕からの悪臭に堪えられないなら、譲れないアル」
「マジ、やめてくんない?」
朱里さんは、銀さんと神楽ちゃんを交互に見て。
それから困ったように笑った。
「あの…匂いは大丈夫です。ああいう香りは好きなんで」
ちょっとォォォ!
この人、とんでもねェ爆弾発言したよォォォ。
オッサン臭を好きな香りって。
銀さんは予想外の言葉に驚いて、飲んでたお茶を溢す始末。
「あの、お言葉ですが…」
僕は耐えきれずに口を挟んでしまった。
「絶対に、良い香りではないでしょう!?何ですか、そのアロマの香りを語るみたいな感じ。オッサン臭ですよ?有り得ないでしょう?」
僕の訴えに、朱里さんはまた笑って。
「…あのお布団は、甘い香りがします」
はぁ?
何言ってんの、この人。
鼻、おかしいよォォォ。
病院行った方がいい。
「救急車、呼ぶアルか?」