第5章 香
「近藤さん、朱里帰って来たんですかィ?」
「あぁ、昨日の夜、顔出しに来た」
沖田さんは『長い髪の女』と思われる人の名を出し。
近藤さんは、その人のことを語る。
「で?今日は何処に?」
「早朝、次の任務に向かわせた」
土方さんが、煙草の煙と一緒に吐き出した言葉に。
僕も神楽ちゃんも、驚きを隠せない。
「地球滞在時間、相変わらず短けェ女でさぁ」
ど…どういうことだ?
今朝、万事屋から出て行ったのに。
もう、居ないって…。
「てめェ等、何で朱里を探してるんでィ」
僕等を見据えて、沖田さんが口を開く。
明らかに、勘繰るような口振りで。
「教える義理は無いアル」
神楽ちゃんは、吐き捨てるように答えた。
「頼みに来たのか、荒らしに来たのか、どっちだ」
土方さんは、若干呆れ気味に。
「万事屋に忘れモノしたから届けに来たネ」
銀さんは「朱里」と呼ばれた女の子を、誰だか知らないと言った。
あの様子だと、真選組の服を着ていたことすら憶えてない。
介抱してくれたことを憶えてるのは、優しくされたからで。
誘いを断られたことを憶えてるのは、本物のダメージだったからだ。
直接話した僕も、顔はあまり憶えてなくて。
黒い警察の服を着ていたこと。
長い黒髪が印象的だったこと。
それしか、残ってない。
「朱里は暫く戻らない。忘れ物とやらは、俺が預かろう」