第5章 香
「離せェェェ、トシィィィ!」
「誰がトシだァァァ」
僕が神楽ちゃんに追いついたとき。
すでに屯所の前では、ちょっとした乱闘が始まっていた。
神楽ちゃんは、土方さんに羽交い締めにされていて。
その向かいの沖田さんは、近藤さんが羽交い締めにしている。
「何の用でぃ」
「お前に用なんてないアル」
凄いメンチ切り合ってるんだけど。
「頼もうって言ったじゃねーか。どこの道場破りだ、てめェは」
「頼みに来ただけアル。離せヨ、トシ」
「何でてめェにトシ呼ばわりされてんだァァァ」
…何か、面倒くさいことになってる。
神楽ちゃん、君は話をしに来たのか。
話をややこしくしたいのか。
どっちか、はっきりしろォォォ!
僕達は、銀さんの言いつけでここに来たのに。
役目を果たさず帰るなんて。
もっと面倒なことになる。
「違うんです、沖田さん。僕ら、人を探していて」
腹の底から声を出して、邪魔立てすると。
その場は一旦、静まった。
「俺達、真選組に協力しろとでも?」
今度は土方さんが、ガンくれてきたァァァ!
羽交い締めから解放された神楽ちゃんが、僕の隣に戻って。
傘の鋒を沖田さんに定めて。
「髪の長い女を出してもらおうか」
何で喧嘩腰?
何で命令口調?