第4章 生業
黒い人は親切で。
ふらふらの足取りの銀さんに肩を貸してくれて。
玄関の鍵を空けて。
トイレで背中を擦ってくれて。
お水まで差し出してくれた、と。
その間、神楽ちゃんは爆睡で。
この娘、巨大地震がきても起きない系だよ。
「あんがとな…何か礼するわ」
全部出し切ったんだ。
見ず知らずの人の前で。
デリカシーの欠片もないよ!
最低なオッサンじゃないか!
でも、朱里さんはそれをやんわり断ったらしい。
どんだけ謙虚?
謙虚と言うか。
目の前でトイレに汚物を大洪水させた人間に言われても…。
何か、気まずくね?
普通に考えて、断るわ!
僕だったら、貰いゲロするよ。
平静を装った朱里さんを尊敬するよ。
この後、銀さんは再びトイレに戻り。
再度、朱里さんが背中を擦ってあげて。
丁重に介抱してくれたんだと聞いた。
「やっぱり、礼させてくれ」
この辺りで、銀さんの酔いも覚めてきて。
ちょっと、恥ずかしさが出てきてる。
当の朱里さんは、やっぱり、やんわり断って。
「お礼ではなく、依頼を受けてもらえませんか?」