第31章 眼
悪い予感は的中。
襖の先の、布団の上は。
俺の着物と、枕に頭を乗せた黒猫。
目を細めて、「にゃー」と鳴いた。
正体が知れただけ、良かったのか。
俺は、落とした肩を正して。
猫を呼ぶ。
面倒臭そうに立ち上がって。
猫の演技をしたまま、近寄ってくる。
「朱里ちゃん、おかえり」
俺の前で座った猫を抱き上げて。
頭を撫でてやった。
「ちゃんと、俺のとこに帰ってきたんだな」
ゴロゴロ喉を鳴らして、俺の手を嫌がることなくすり寄ってくる。
俺の言葉は、ちゃんと伝わってるみてーだ。
「お利口な朱里ちゃんには、銀さんのチューを、」
そこまで言ったら、猫パンチが飛んできた。
え、何、嫌ってこと?
「久々で照れてんの?」
それとも何だ?
やっぱり普通の猫ってこと?
「朱里ちゃん」
「にゃー」
「俺の言ってること、解るか?」
「にゃー」
「猫だけど、朱里ちゃん?」
「にゃー」
「…………戻るまで、お前は家の子な」
「にゃー」
言葉が本当に通じてるかなんて。
正直、判らない。
でも、甘えるように、俺の口元を舐めたから。
やっぱり、この猫は朱里ちゃんで。
真選組に渡すなんて、真っ平御免被るわ。