第30章 探
フラフラと立ち上がって。
鳩尾を押さえながら部屋に戻る。
「マジ、有り得ねェんだけど…」
胃液が逆流するかと思ったわ。
どんだけ怪力なんだよ。
女子の力じゃねェよ、あんなの。
「オイオイ、今度は何ですか?何の嫌がらせ?」
部屋の入口に背中を預けて声を掛ければ。
一斉に視線を向けられる。
マジで勘弁してくんない?
視線で語られても、全然解んねェから。
「ここまで最低な人だとは、思いませんでした」
凄い形相のお妙に睨まれて。
無言で目の前に立たれる。
「あんなに可愛い猫、何処で拾ったのかしら」
吐き捨てるように言ってから。
『バン』という音と共に、平手が飛んできた。
「新ちゃんは、今日限りで辞めさせます」
俺が左頬を擦っている間に。
横を通り過ぎて、そのまま出て行った。
「お妙ちゃん!」
その背中を追って、九兵衛が走り出す。
「お妙ちゃんを悲しませたお前を、僕は許さない」
イヤ、悲しませてねェし。
寧ろ、俺が悲しいわ。
理不尽な拳と平手。
誰に文句言えばいいわけ?
「処理に困ってるなら、いつでも言ってくれていいのよ、銀さん。さっちゃんだって、銀さんを悦ばせることできるんだから」
こいつは何を言ってんの?
誰か通訳してくんない?
「どこのメス猫か知らないけど、今、この場で殺っちゃえば…」
何か、物騒なこと呟いてるけど。
動物愛護団体に訴えられろ。
「止めなんし。相手の言い分も聞かずに、ぬし達は…」
「何よ、ツッキー。あんただって、内心では思ってるんでしょう?」
「止めなんし、と言っている」
ちょ、クナイ仕舞ってくれる?
つーか、何で修羅場みたくなってんの?
「詮索し過ぎた、わっちらが悪かった……邪魔したな」
月詠は俺と視線を合わせないまま。
さっちゃんを引き摺って部屋を出て行った。
「結局、あいつ等、何しに来たわけ?」