第30章 探
チャイムの音で目を覚ます。
今月の家賃は、取り立て前に払った。
「…ってことは、客か?」
何で人が二日酔いの日に来るのかねェ。
昨晩も焼酎に飲まれちゃったから。
まだ寝てたいんですけど?
『ピンポピンポピンポピンポーン』
居留守という手は通用しない相手らしい。
俺は渋々、布団から出る。
「どんだけ急ぎの依頼?」
寝間着を脱ぎながら悪態ついて。
服を着て、着物に手を掛ける。
ピンポン音は鳴り止まず。
「チャイム壊れんだろーが」
俺は掴んだ着物を放って、玄関に向かった。
「あら、銀さん。おはようございます」
引き戸を開けると、お妙が顔を出した。
「おはようって言うか、世間は昼過ぎてますけどね」
張り付けた笑顔のまま、玄関へと踏み込もうとする。
引き戸が移動する毎に。
九兵衛、さっちゃん、月詠の順に、横一列に並んでいた。
「何?超パフュームの復活ですか?」
俺は服の裾から出た腹を掻きながら四人を見下ろして。
「てめェ等のプロデュースは御免だぜ」
そう告げて踵を返す。
「待って、銀さん。違うの」
始末屋が声を上げる。
首だけそちらを向けば。
「最近、綺麗な雌猫にご執心って聞いたから、見に来たんですぅ」
張り付いた笑顔の目が笑ってないのは。
俺の気のせいではないはずで。
遠くの空で、雷鳴が響いたのも。
これから起こる出来事の結末を。
暗示しているだけかもしれねェ。