第29章 昧
「もう新八は泊まらなくていいネ。一度も朱里の横になったことがないアル」
「残念だなァ、ぱっつぁん」
「じゃあ、譲ってくださいよ!」
結局、俺たち万事屋は。
朱里ちゃんが大好きで。
俺という存在を放って、その隣を狙ってやがる。
「嫌だね」
「嫌アル」
俺と神楽の声が重なって。
新八の盛大な溜息が落ちた。
以前とは、違う。
同じなら、ここまで気張ってする勝負じゃない。
『あの頃は、抱き枕だったしな……』
思い返せば、それが始まりで。
それが今に繋がってるんだから。
「思い出し笑いですか、銀さん?」
恨めしそうな視線の新八と目が合って。
緩んだ口元を正す。
「いやらしい顔してるアル」
コレ、生まれつきの顔ですけど?
何言ってんの、お前。
こんなイケメンに向かって。
声には出さないけど。
「きっと、また何か企んでるんだよ」
「企みようもねェわ」
俺たちの言い争いを、嬉しそうに見ている朱里ちゃんは。
「笑い事じゃないですよ、朱里さんんんん!」
新八の救いや同情を求める声にも、笑顔で。
「だって、嬉しいから」
そう言って。
「ここは温かいから、大好きなの」
目蓋の裏に、焼き付けるように目を伏せて。
もう一度、俺たちを視界に入れる。
「……寝るか?」
しんみりする前に。
部屋を暗くするなんて。
俺も卑怯な手を、使ったもんだ。