第28章 常
下拵えを終えて、台所に二人。
気を利かせたのか、飽きたのか。
新八と神楽は、観たい番組があると。
少し前に、引き上げて行った。
「坂田さん、」
隣の朱里ちゃんは、不意に手を止めて。
俺を呼ぶ。
「ん?」
視線を落とせば。
綺麗な目の中に、自分が映る。
「素敵な時間を、ありがとう」
ふわりと。
優しく笑んでから。
俺の肩に、頭を預けて。
「ココが好き」
そう言った朱里ちゃんの表情は、見えないけど。
俺の隣が好きって。
そう解釈しても、いいってこと?
「……俺も」
乗せられた頭に、頬を寄せて。
鍋をかき混ぜるために握ったお玉を放して。
右手で髪を撫でてやる。
「ん……」
小さく息を吐いて、身体の向きを変えた朱里ちゃん。
そのまま、抱きついてきたから。
俺もそのまま受け入れて。
左手で、一旦火を止めて。
両腕で抱き締め返してやった。
「色々、足りなかった?」
小さく耳元で囁くと、素直に首を縦に振る。
「あーもー、本当、可愛いなコノヤロー」
決心が鈍るでしょーが。
あいつらが居るのに。
手を出したく、なっちゃうでしょーがァァァ。
「ちょっと、上向いてみ?」
胸に顔を埋めたままの朱里ちゃんに、声を掛けて。
やっぱり素直に言うことを聞く、その唇に。
触れるだけの口付けを、ひとつ。
正直、俺もそれだけじゃ足んないけどね。