第23章 望
午前2時を少し回った頃。
俺と朱里ちゃんは、万事屋を出る。
ババァの店は、灯りを消していて。
中から常連客の声が聞こえた。
大通りから少し離れた立地。
ぼんやりと暗い夜道を、手を繋いで歩く。
「見廻り以外で、こんな時間に歩くの、初めてです」
遠足に行くガキみてェなテンションで。
でも、握った手の温もりは心地好い。
「昔は、嫌いだった」
「ん?」
「この町が、嫌いだったの……」
ふと立ち止まって、ネオンで明るい空を見上げる。
其処らのキャバ嬢より、綺麗な顔して。
嫌いと口にしながら、町を見る目が。
あまりにも、慈愛に満ちてる。
「汚くて、住みにくいのに、気付いたら……好きになってた。坂田さんを知って、もっと、好きになった」
ココが帰る場所になったのは、つい最近だと言って。
通りの向こうに見える、万事屋を指差す。
「あの部屋は、屯所での寝泊まりをしないようにと、用意された部屋で……地球に居ないから、あまり使わないけど」
次に、女性専用を謳ったマンションを指差す。
「この町は、誰でも受け入れるけど、誰にでも優しいわけじゃない……みんなが、坂田さんみたいな、人じゃない」
「俺も、そう思ったことがある。住み始めた頃、同じこと、思ったわ」
来るもの拒まず去るもの追わず。
きらびやかな夜と、肥溜めみてェな朝。
優しいようで、厳しい現実を見せる町。
「一緒なら、いいんじゃね?」
ここが好きだから、ここに住む。
簡単に見えて、難しいことも。
分け合えば、荷も半分だ。