第23章 望
髪に触れる気配。
町の光が僅かに射し込む部屋は、仄暗い。
腕に抱いたはずの朱里ちゃんの腕の中で、目を開ける。
「どーした?眠れない?」
腰から背中に回した腕で、軽く背中を叩く。
ポンポンと一定のリズムで、寝かし付けをするように。
「眠るのが、勿体なくて」
「……どの口が言ってんの、それ」
「この口ですね」
俺の旋毛の辺りに、口付けてから。
髪に頬を寄せる。
「先に寝て、ごめんなさい」
「気にすんな」
「私が、欲しいって……言ったのに」
「満足したから、眠くなったんだろ」
「でも、坂田さんは……?」
布団に沈んだ身体はそのままに。
俺は朱里ちゃんを、きつく抱き締めて。
「こうして傍にいりゃ、それでいーよ」
本当は、足りなくても。
補う別の何かを得てるんだから。
「お相子だ」
頭を抱く、腕の力が強まって。
顔が胸に埋まる。
「坂田さん」
「ん?」
「大好き、です」
「うん」
「ココが、好き。この場所が、好き」
「うん」
俺も、この場所、気に入ってる。
朱里ちゃんの心音がダイレクトに響く。
生きてる証が、聞こえる。
「……寝れなくなっちゃった?」
「……はい」
「少し、散歩でもするか」
「散歩?」
「だって、まだ明るいだろ?」
明け方まで。
この町は、眠らないから。
昼寝した分、起きているのも悪くない。